1.社会と人間を結ぶ情報システムの可能性
現代社会では,様々な情報システムが続々と開発され,私たちの日常生活は情報システムの進展により大きな変化が生じている。特に情報システムのうちでも,GIS(Geographic Information Systems; 地理情報システム)は研究面だけではなく,行政,企業が提供するサービス,市民による社会活動など,様々な場面で利用されるようになった。そしてGISでは,一方的に情報提供を行うだけではなく,デジタル地図を利用した双方向性の情報交流や多様な主体間の情報共有を行うことができる。
これらの背景には,他の情報システムとは大きく異なり,デジタル地図上に多様な情報を掲示し,情報提供・共有化を行うことができるというGISの大きな特徴がある。またインターネットなどのITと結びつくことにより,広く社会に情報提供を行い,意思決定支援を行うことができるようになった。さらにGIS以外にも多様な情報システムが社会で積極的に利用されることにより,より良い地域づくり,環境づくりを行うために市民参加を促進することができる可能性がある。
2. 社会情報システムとしてのGIS
GISは,以下のような特徴を持つ社会情報システムであり,人間と社会をつなぐためにこれから大きな役割を果たすことが期待される。
- 位置や空間に関する情報をもったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し,デジタル地図上に視覚的に表示できるため,迅速な分析や判断を可能にする
- 多様な情報源から大量の空間データを取り込み,デジタル地図を利用したデータベースを作成する
- データベースを効率的に蓄積・検索・変換・解析して地図を作成し,情報提供・共有化や意思決定支援を行う
またGISには,以下の図に示すように,データベース作成ツール,情報解析ツール,情報提供・共有化ツール,意志決定支援ツールとしての機能があり,社会と密接な関わり合いをもつ情報システムである。したがって,私たちが公共選択を行うにあたって,果たす役割はたいへん重要であるといえよう。
3.研究のアプローチ
このような状況を踏まえ,社会情報システム学の視点から,特にGISを中心として,以下のような研究のアプローチを試みたい。
(1)社会情報システム論
多様な情報システムの特徴や相互関連性について理解するため,特に代表的なものを取り上げて,これまでの発展の歴史や社会における利用状況について理解する。
(2)意思決定論
現代社会における多様な情報システムを利用した意思決定システムの具体的な事例を取り上げ,意思決定における情報提供,共有化の意義について論ずる。
(3)公共選択論
市民を中心とした様々な主体による地域協働型活動の具体的な事例を取り上げ,これらの主体による公共選択において情報システムが果たす役割について論ずる。
4.近年の研究
これまでに行ってきた研究は GISを利用した研究が中心であり,以下の3つに大別することができる。
(1)GISによる土地利用解析を基盤とした研究
[1] オープンスペースや公共空間の充足度及び配置計画の評価
- 公共的緑地の充足度評価方法に関する研究
- 日本とアジア諸国の大都市圏における密度指標としての緑地の充足度と配置計画の評価
[2] 土地利用計画の評価
- 環境保全型の土地利用
- 日本と諸外国の大都市の都市・地域計画
- 河川や湖沼の流域管理
(2)GISとICTを利用した情報提供・共有化手法についての研究
[1] 環境意識・環境配慮行動とICTとの関連性についての研究
- 市民団体,NPOの活動の支援システムの開発
- 環境学習支援システムの開発
- マスメディアやICTによる普及啓発活動
[2] 情報発信・共有化手法に関する実証的研究
- 行政組織の統合型GISの構築
- NPOとの協働によるWeb-GIS,PP-GIS(市民参加型GIS)の構築
- GISやICTを利用した様々な事例の比較検討
- 多様な地域情報の発信・共有化手法の開発
(3)環境意識・環境配慮行動に関する研究
[1] 市民の環境意識・環境配慮行動に関する研究
- 環境意識・環境配慮行動の実態調査
- 地域協働による廃棄物問題,ゼロエミッション活動
- リスクコミュニケーション
- 市民・住民やNPOによる環境活動
[2] 企業の環境活動に関する研究
- リサイクルシステム,ゼロエミッション活動
- エネルギー問題
- 企業の環境活動
- 環境配慮型製品
5.学生の皆さんに希望すること
自分の研究歴を振り返って考えてみると,大学院での研究期間は,学生として,研究のみに専念することができるたいへん貴重な時間であるといえる。このような期間に,可能な限り試行錯誤し,斬新なアイデアで新しい研究分野を切り拓く意欲を持つ学徒との相互の研鑽を希望したい。