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教員紹介

稲葉 緑 助教 INABA Midori

  • 社会知能情報学専攻
  • 経営情報システム学講座
  • inaba(at)is.uec.ac.jp

1.はじめに

人間は,確率上合理的と考えられる判断を常に行っているわけではありません.例えば,ある国の高官による「牛肉を食べてBSE(牛海綿脳状症)が発病する確率は,交通事故に遭遇して死亡する確率よりも低い」という発言が話題となりました.ところが,「安心して輸入牛肉を食べることができない」と言う人はみかけても,「交通事故にあうのが怖くて外に出ることができない」と引きこもっているという話はあまり聞かれません.どんなに確率的にはほとんど起きない出来事に対しても「自分だけが不運にも貧乏くじを引いてしまうかもしれない」と考えることがあります.逆に,高い確率で起きることがわかっているにも関わらず「自分だけは大丈夫だ」と思うこともあります.万が一,統計上の発生確率が同じだったとしても,すべてを同じように判断しないのが人間です.なぜこのように人間は一筋縄ではいかないのでしょうか?

2.研究のアプローチ

(1) 研究テーマ

人間が統計的な確率だけに頼って判断をしない理由の一つに,私たちがコンピュータとは異なり,存在するすべての可能性を平等に吟味した上で判断を下しているわけではないことが挙げられています.判断する本人は,まさか自分が限られた情報しか処理していないとは気づいてもいません.だからといって,本人が気づいていないオプションについて指摘してあげれば問題が解決するかというと,それも違うようです.自分が強く希望するものについては,そのリスクを小さく評価するという報告が示すように,自分にとって都合の悪い情報,あるいは思い込みにそぐわない情報を軽く扱ってしまうことがあると思われます.時には無視することもあるかもしれません.つまり,私たちは自分が望んでいる情報だけを選び出して認識し,それに基づいた判断を行っている傾向があるとも言えます.一方で,耳が痛くなるようなアドバイスを素直に受け入れることが非常に困難だということです.このような情報の「選好」,「軽視・無視」が生じるプロセスについて明らかにすることが現在の研究テーマです.

(2) 情報提示のサポート

以上のような情報の選択性は一概に悪いとは言えません.しかし時には,社会的な問題を引き起こす可能性も考えられます.リスク・コミュニケーションの研究領域では,説明をする側と受ける側との間に合意がなされることが望ましいとされています.しかし説明される側に都合の悪い情報を無視するプロセスが働くと,説明する側がリスクを伝えても,そのことがあまり考慮されないまま合意に至ってしまうことが考えられます.本人がもともと思い込みや希望を持っているところに,期待に反した情報を単に繰り返して提示するだけでは,効果が小さいのです.そして後になって「話が違う」ということになりかねません.

私のもう一つの研究テーマは,「いかにして受け入れ難い情報にも目を向けてもらえるのか?」です.特に,リスクが小さいと誤って判断された場合,どうすれば本人に危機感を感じさせることができるのか,基本的には個人の意思決定プロセスに対する効果的な働きかけについて明らかにすることを目指します.その際には,集団力学的な観点やシステム上のサポートといった点なども考慮していきたいと思っています.

(3) 研究手法

認知工学的な実験による検討が主です.パソコンはもちろん,ドライビングシュミレータなどを使って,実際に人が判断,行動した結果を解析し,モデルを構築します.脳波などの生理的な指標を使うこともあります.

私は心理学教室の出身で,これまで,いかに感情によって私たちは左右されやすいかというテーマで研究を進めてきました.人間は決して常に計算通りに動かないところに,研究対象としてのおもしろさがあるのだと思います.今後は,判断にまつわる『人間らしさとは何か?』という問題に取り組んでいきたいと思っています.

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