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教員紹介

小川 朋宏 准教授 OGAWA Tomohiro

  • 情報ネットワークシステム学専攻
  • ネットワーク基礎学講座
  • ogawa(at)is.uec.ac.jp

1.はじめに

私の研究分野は量子情報理論です.特にこれまで,量子状態を媒体とした情報通信に関する理論研究をしてきました.量子情報理論の魅力とは何でしょうか?私なりに考えてみると,様々な思いが頭に浮かびます.

2.情報理論

最初に,私の研究の基礎である情報理論について述べます.情報理論は,1948年にシャノンによって創始されました.これにより「情報」の本質が,物理法則に匹敵する理論として,シンプルな形で浮き彫りにされました.

例えば,無線交信で電波状態が悪い時,正確に文字を伝えるために冗長性を付加して,A=ALFA, B=BRAVO, C=CHARLIE のような対話表(フォネティックコード)を用いるのをご存知でしょう.このように通信路にノイズがある場合,誤りをより小さくするためには,通信速度をより遅くする必要があると考えられていました.シャノンは当時の常識を打ち破って,通信路容量という通信路に固有の通信速度までは,うまく符号化することで任意に誤りを小さくできることを示しました.

60年前に誕生した情報理論は,今日までデータ圧縮・誤り訂正といった様々な符号化の設計指針となっています.これらの符号化技術が,コンピュータ,携帯電話などの情報通信機器にとって必要不可欠です.理論研究の普遍的な力を感じます.

3.量子情報理論

情報理論が成功した一因は,「情報」を記号の流れとして,確率論に基づいて抽象化したことにあります.一方,「情報」には物理的媒体を伴うはずですから,レーザーのように量子効果が無視できない場合,量子力学的確率論に基づいた情報理論が必要とされます.

量子情報理論は工学(情報理論,統計学,計算理論),物理学(量子力学,統計力学),数学(確率論,作用素論)の様々な分野が交差する研究テーマです.逆に言えば,どの分野から見ても辺境なのですが,未開拓がゆえに研究のしがいがあります.また,様々なバックグラウンド・目的を持った研究者と交流の機会があります.

最後に,量子情報理論を研究する動機のひとつに,量子力学そのものに対する理解を深めたいという思いがあります.やはり量子力学は不思議です.量子力学における測定の理論や,量子相関(エンタングルメント)は通常の常識とは相容れない結果を導きます.量子力学は測定プロセスに確率・統計概念を含んだ理論です.情報理論や統計学のように工学的・操作的アプローチが有効になります.

4.研究テーマ

これまで情報理論の立場から,量子状態の統計的識別(量子仮説検定)や,量子状態を媒体とする情報伝送(量子通信路符号化)について,符号化定理を構築してきました.通常の情報理論においても,通信路に盗聴者が存在する場合の分散符号化方法について研究をしています.

最近では,可逆な量子状態操作の特徴づけに興味を持っています.量子操作の可逆性は,量子誤り訂正,量子秘密分散法といった量子状態を忠実に伝送するプロトコルにおいて,復号可能性条件やセキュリティー条件として重要な概念です.同時に,情報理論的,情報幾何学的な不変量を考えると,量子誤り訂正や量子暗号プロトコルの符号化効率評価,安全性評価に結び着きます.

5.おわりに

大学院の学生時代には,自分にとって面白く重要な研究テーマを探すことが,最も難しく大切なことだと考えています.そのための基礎として,論理的思考能力や主体性を身につけることは重要です.私も情報理論をベースに,研究分野を広げていきたいと思っています.小さくても常識を打ち破るような研究を目指しましょう.

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