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教員紹介

阪口 豊 教授 SAKAGUCHI Yutaka

  • 情報メディアシステム学専攻
  • 人間情報学講座
  • sakaguchi(at)is.uec.ac.jp

脳機能の工学的研究

私の研究テーマは,一言で言えば,脳機能の工学的研究(あるいは計算論的研究)である.「情報系の大学院でなぜ脳の研究を行なっているのか」と思われる方もあろう.そこで,まず,脳の工学的研究とはどういうものか説明することから始めたい.

脳の情報処理は神経細胞の電気的活動により行なわれているが,生理学者たちは,個々の神経細胞に微小電極をあててその信号を測定することにより,脳の仕組みを調べている.しかし,人間の脳には百数十億個の神経細胞があり,またそれらが複雑に結びついて機能していることを考えると,脳のメカニズムを神経細胞レベルで説明することは非常に難しい.

そこで,情報処理の担い手である神経細胞のことは考えずに,脳を一つの「情報処理システム」として捉え,脳内で行なわれていることを情報処理のレベルで明らかにしようとするアプローチが生まれてきた.これが脳の工学的研究である.すなわち,人間と同じような振舞いをするシステム(モデル)を工学的な理論に立脚して設計・製作することを通じて,脳のメカニズムを間接的に理解しようとするのである(ニューラルネットワークを用いた脳のモデル化の研究も,広い意味でこの範疇に含まれる).

ここで注意しておきたいことは,我々の研究の目的が,「脳に学んで優れた工学的システムを作ること」ではなく,「工学的理論に基づいて脳を理解すること」にあることである.言い換えれば,人間の優れた性質だけをつまみ食いするのではなく,人間の良いところも悪いところも素直に見つめて,その中から脳の情報処理の仕組みを考えるのである.この点が,純粋な工学的研究と大きく異なる点である.

感覚統合と能動的認識

脳の工学的研究の対象は,認識,記憶,学習,運動など多岐にわたっているが,私自身は,感覚・知覚,運動制御など「物理世界とのインターフェース部分」のメカニズムに的を絞り,「感覚統合」と「能動的認識」の二つをキーワードとして研究を進めている.

感覚統合とは,複数の感覚受容器からの情報を組み合わせることにより外界を総合的に理解することであり,一方,能動的認識とは,状況に応じて「注意」の向きを変えることにより,適切な情報を選択的に取り込みながら対象を理解することである.具体的には,

  • 運動系と感覚系が協調的に機能するメカニズムの理解
  • 文脈や注意,群化の働きをふまえた知覚メカニズムの理解
  • 脳や神経系における情報表現に関する研究
  • 人間の身体や視線の計測や解析,および計測に必要なシステムの開発

などのテーマを扱っている.

実際の研究は,計算論的モデルの構築とその検証のための心理学的実験という形で行なっている.また,生理学者,心理学者など生物を相手に実験している研究者たちとともに研究会を開き,議論を重ねている.

研究の土台

さて,脳を工学的に研究するためには,生理学や心理学などの知識を得ることが必要であるが,それ以上に重要なのが工学分野での基礎的な能力である.

私は応用物理学関係学科の出身であるが,学生時代に学んだ種々の理論が,現在の研究の要所要所で重要な役割を果たしている.脳とは全く関係のない理論の中で用いられるアイディアが脳の仕組みを考える上でのヒントになることもある.このことは,たとえ研究対象に脳を選んだとしても,それを一つの情報システムと捉えれば,その本質はそのような理論と密接に結びついていることを表している.

同じことは,脳の研究だけでなく,あらゆる領域の研究に共通することであろう.したがって,学生諸君には,なるべく広い分野にわたって基礎的な勉強を積んでもらいたいと思う(何を隠そう,私自身,いまでも他の研究室に出入りして基礎的な勉強をさせてもらっている).

研究は芸術なり

ある著名な研究者が「研究とは芸術である」と言ったそうである.確かに,研究者にとってオリジナリティは何よりも重要である.扱う問題の対象が新しくても,それを解決する際のものの見方や切り口が新しくなければ,高く評価されない.その一方で,オリジナリティの高い研究を行なうには,その土台となる基礎的な能力が要求される(前衛絵画を描く画家のデッサン力は人一倍だそうである).

「ああ,この人らしい研究だ」と言われるような研究ができればと思う.

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