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教員紹介

饗庭 絵里子 助教 AIBA Eriko

  • 情報メディアシステム学専攻 人間情報学講座
  • aiba.eriko(at)is.uec.ac.jp

はじめに

ピアニストと研究者

私は芸大のピアノ科を卒業しました.では,「なぜ研究者になろうと思ったのか?」これは,初めて出会う人には必ず聞かれることですが,私はピアノを練習することと,研究することとの間に大きな隔たりを感じていません.ピアニストは,毎日何時間も,どのようにすればよりよい演奏ができるようになるのかを探求します.これは実験と検証の繰り返しです.もちろん,その成果を論文として発表することはありませんが,その代わりに演奏会やコンクールで演奏を披露します.形は違っていても,根本は共通しているのだと思います.

物理的な同時と知覚される同時

ピアノのレッスンでは,多くの先生から様々な指導を受けましたが,私にとって最も難題だったのは和音の響きに関する指摘でした.「和音の響きをよく聞いて」とか「和音の響きをひとつにまとめて」などと言われるのですが,具体的にどのように演奏することなのか分かりません.ただ,よくよく聞きながら練習を続けてみると,どうやら音の開始がぴったりとそろっていて,それぞれの音の大きさが均一になっていると,響きがまとまっているような気がしてきました.

そんな折,聴覚末梢系の蝸牛には「蝸牛遅延」と呼ばれる現象があり,たとえ高い周波数成分と低い周波数成分を全く同時に入力したとしても,低い周波数成分が遅れて処理されている可能性があることを知りました.では,いったい同時とは何なのか?物理的には同時であったとしても,聴覚の末梢レベルにおいて,その同時性は既に崩されてしまっています.さらに奥のレベルで補正されているのか?あるいは,遅れは無視されてしまうのか?現在,この疑問への答えを見つけるべく,聴覚の時間情報処理メカニズムの解明に取り組んでいます.

技能獲得と実現のメカニズム

ピアノ演奏だけでなく,スポーツ,料理,運転,キーボードのタイピングなど,普段の生活の中でも,熱心に取り組めば,これまで出来なかったことが出来るようになります.様々な環境で転倒せずに歩行することでさえ,多くの技能を獲得しなければ実現できない運動です.ヒトは,各感覚から得られた情報に基づき状況を判断し,身体をどのように動かすのかを即座に決定し,命令するという複雑なシステムを非常に上手く機能させています.ピアニストとしての経験を生かしつつ,このような技能獲得のメカニズムや,その技能実現のためのシステムの解明に関わる研究を,本学の技能情報学ステーションを核として行っています.

具体的な研究内容

聴覚の時間情報処理メカニズム

心理物理実験や,脳機能計測(聴性脳幹反応),聴覚末梢モデルによるシミュレーションを用いた研究を行っています.蝸牛遅延量を操作するような音刺激を用いて,刺激の時間的な情報が各処理過程でどのように変化するのかを観察しています.現在までに,ヒトの聴覚は蝸牛遅延が顕著に生じる低音域の遅れに,あまり敏感ではないことが明らかになっています.

聴覚の可塑性

演奏家に対して音の時間分解能を計測するための心理物理実験を行うと,非演奏家よりも時間分解能が高いことが明らかになりました.脳機能計測においても,演奏家は音刺激の物理的な時間情報をより忠実に再現しているように見える反応を示しています.これは,演奏家が,長期間にわたって繰り返し注意深く音を聞き続けた結果,神経に可塑性が生じたためであると考えられます.今後,さらなる検証は必要ですが「音楽家は外国語の聞き取りに長けている」と言われる根拠となりうる成果です.外国語の訓練に音楽が活用できる日が来るかも知れません.

その他

職人の中には,音を聞くことで,次のステップに進むタイミングや出来映えを判断するヒトが大勢います.作業過程で生じる音を解析し,どのような音情報が作業に役立てられているのかを,様々な音響解析手法を用いて明らかにしています.

また,技能獲得には長期間にわたる訓練が欠かせません.そこで,技能獲得に関わるモチベーションの構造解明も行っています.

この他,感性情報学や心理統計学による音や画像の印象評価に関する研究も行っています. 関西学院大学の感性価値創造研究センターと共同で,様々な製品に新しい価値を生み出すため,ヒトの感性を数値化したり,同様の感性価値を持つ人々を分類したりするための手法を開発しています.研究成果は,企業との共同研究を通じて,積極的に社会に還元することに努めています.

教員紹介