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教員紹介 リレーコラム

情報システムが切り拓く未来 第7回 2009年12月

大学院のアルキカタ

野嶋 琢也
情報メディアシステム学専攻 対話型システム学講座

コラムを書いて下さい,という依頼を受けてWordとにらめっこをしている.コラムなんて柄ではないと思いはしたものの,泣き言を言っても始まらないのも確か.というわけで,主たる読者であろう学生の皆さんに役に立ちそうなことを書いてみようと思います. ただしコラムなので,かなり主観的に書いていることは予めご承知おきください.

私の所属するIS,情報システム学研究科は独立大学院です.大学院は大学よりもさらに専門化がすすみ,研究に主軸がおかれています.それが意味するところはなにかといえば,「誰も正解を教えてくれない」ということです.

高校までの受験勉強や,大学の教養課程で教えられる内容は,ほぼ「正解」とされるものがあります.それらは過去数百年にわたる先人の科学的な検証の結果,正しいとされているものの集合体です.そして大学専門課程,および大学院の主軸である「研究」とは,先人たちの功績を礎として,未知なる領域を切り開く行為です.

人類にとって未知なる領域を切り開く行為が「研究」ですから,当然,先生といわれる人々も研究の「正解」は分かりません.だから「誰も正解を教えてくれない」,となるわけです.このため専門課程以降,特に大学院などでは,先生と学生は教える人と教えられる人という関係だけではなく,往々にして物事を探求する上での同僚という側面が出てきます.同僚なので単純な上下関係ではなく,互いに協力して物事を進めていく,ということが求められます.

それじゃ先生なんて実は大したことないじゃないの?と思った学生のアナタ.正解です.先生なんて大したことないんですよ.実は.肩書きに踊らされてはいけません.

先生二人
ゼミ合宿で火おこし担当の先生二人

もしあなたが卒論生・修論生であるならば,少なくとも卒論テーマ・修論テーマに関しては,先生よりも上であってしかるべきです.そのテーマ限定であれば,あなたは世界でトップの存在に成り得る立場にあるということを理解してください.学生と先生が仮に同じ時間だけ研究に時間を割けるとしても,先生はテーマの数だけ時間と思考が分散されるのに対し,学生はそのテーマに全力を注ぐことができるのですから,これは当然と言えば当然でしょう.

それじゃ大学院で先生の役割はなに?適当にふんぞりかえって叱るだけ?と思った学生のアナタ.今度は不正解です.
先生と呼ばれるような人々はおよそ,世の中の問題点を見出す能力,正解「らしき」ものを見つける能力,そしてそこへ到達するための科学的に正しい手段を見出す能力を備えています.そのため真の正解はわからなくとも,正解「らしき」ものを見出し,そこへ至る何通りもの経路を弾きだすことができます.つまり未知なる領域に目標と道を見出すこと,これこそが先生とよばれる人々の役割と言えるでしょう.

このような道を進むことは決して楽ではありません.卒論生であれば,道の進み方を身につけるだけで精一杯でしょう.そして修論生であれば,道の先にあるものを疑ってかからなければいけません.あくまで今アナタがたどっている道は,多くの道のうちの一つでしかなく,しかもその先にあるものは正解「らしき」ものにすぎません.その道の先にあるものが真の正解であるかどうか,それを本当に判断できるのは,実は実際に研究をしているアナタしかいないのです.

いろいろ書いているけど,結局大学院とか研究とか,いわば特殊環境での話ですね.就職したら私は研究なんかやらないから関係ない,と思った学生のアナタ.認識が甘いです.

これまで「研究」という言葉で綴られてきた文章は,その本質において,多くの社会活動において通用する話です.物事をどう動かせば良い結果が得られるか,正解は誰も知りません.いわゆる常識やルールと呼ばれる社会規範は,良い結果を得る上で補助になることはあります.しかし新しい問題に対する適切な解法を与えてくれるわけではありません.そのような中で,新たなる問題に対して自分がどう行動すべきか.「研究」を通じて,そのような問題に直面した時の身の処し方を学ぶことができます.

ここまで読んで,研究って大変だな,大学院は大変だなと思った学生のアナタ.いいことを教えてあげます.研究なんて好きなことをやればいいんです.楽にはなりませんが,楽しくはなります.

お疲れ?
ゼミ生とともに海外でのデモ展示へ.楽しみの前のひと苦労.長時間のフライトでお疲れ?

今やっている研究が楽しくないのであれば,その研究が楽しくなるように変えてしまえばいいんです.あるいは,隠れて楽しい研究をすればいいんです.研究は科学的に正しい手段で遂行することが求められます.また,安全上の問題もあります.そのためなんでもかんでも自由にできるというわけではありませんが,自分が楽しく研究を遂行するための道は大抵いくつかあります.
ただし研究が高度になるにつれ,その楽しさを理解するには一定の知識が必要になります.先生が面白いと言っても自分には面白く感じられない,ということは多々あります.そんな時は一歩立ち止まって,なぜ先生がこれを面白いと言っているのか,あるいはこれがダメと言っているのか,その理由について考えてみてください.

一歩立ち止まって
一歩立ち止まって考えよう@New Orleans

長々と偉そうなことを書きました.何はともあれ,大学で4年,大学院修士課程で2年という期間が,単なるモラトリアムではなく,有意義で楽しい時間となるように願っています.

あそうそう.ちなみに私の専門はバーチャルリアリティです.この分野は言葉で語るよりは体験するのが手っ取り早いので,興味のある人は,NTT ICC(http://www.ntticc.or.jp/index_j.html)や日本科学未来館(http://www.miraikan.jst.go.jp/),そして学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(http://www.ivrc.org)とか行ってみるといいと思いますよ.もちろん,興味のある人はこちらの研究室まで気軽にあそびにきてもらってかまいません.

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