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教員紹介 本棚紹介

小川 朋宏 OGAWA Tomohiro

情報ネットワークシステム学専攻 ネットワーク基礎学講座
准教授

書棚の概略・研究テーマとの関連性

私の専門は情報理論/量子情報理論という分野で,日々,情報の符号化や伝送に関する理論研究を行なっています.専門分野をもっと広く捉えると数理工学という分野になります.量子情報理論は,情報・物理・数学・工学など様々なバックグラウンドの上に成り立っています.そのため本棚にはこれらの分野の本が入り乱れています.紹介したい本は沢山ありますが,以下ではガイド役になったつもりで,情報理論と量子情報理論の本を紹介したいと思います.

お薦めの本~学部生・一般向け

「情報理論」 甘利俊一, 筑摩書房 (ちくま学芸文庫), 2011, ISBN-10: 4480093583

学習理論,情報幾何,統計学といった分野で先駆的な研究をされた著者が,まだお若い30代の頃に書かれた教科書で,情報理論の根幹部分が分かり易く,軽快な語り口で解説されています.原著は1970年に出版され,長らく絶版状態でしたが,ちくま学芸文庫として復刊されました.40年以上の歳月を経た現在でも色褪せない魅力を備えた名著です.

前半は学部初年級や高校生の方も,気持よく読み進めて行くことが出来るでしょう.冒頭で「情報の量」を測る概念として,シャノン・エントロピーが導入される様子が生き生きと語られています.ちくま学芸文庫シリーズなので,お近くの書店でも手に取ることが出来ます.

途中から難しい表現が出てきましたか?「大数の法則」にある「任意のε」とか「Nを十分大きく取れば」といった表現ですね.本書では丁寧に説明がされていますが,その部分は「数学の言葉」として読みましょう.難しいと感じた方に,数学の言葉や勉強方法を教えるガイドブックとして,次の本をお勧めします.

ちなみに,私が初めて行った外国は学会発表で行ったギリシャでした.当たり前ですが,εや∑といったギリシャ文字が街中に踊っていて,何だかワクワクしたのを覚えています.

「数学の基礎体力をつけるためのろんりの練習帳」 中内伸光, 共立出版, 2002, ISBN-10: 4320017005

本書は命題論理,述語論理,集合,写像といった「数学の言葉」を使いこなすことに重きを置いた自習書です.いつの間にかイプシロン・デルタ論法が身につくように配慮されているので,これが苦手な人には是非お勧めします.また要所要所で,著者による個性的なイラストや,華麗なギャグが散りばめられています.ギャグをスルーしたつもりでも,数学の言葉と一緒に強烈に記憶に定着することでしょう.

数学のみならず情報や物理の議論をきちんと理解したり,計算機プログラムを正確に書けるようになるには,本書のレベルで数学の言葉を操れると良いと思います.慣れてしまうと,ほとんど頭を使わずに理解できる部分があります.イプシロン・デルタ論法なんかもその部類に入ると思います.もちろん,実際は「直感」を様々に駆使しながら研究や勉強を進めますが,論理の部分を鍛えておくと,本質的な部分に思考を使え,その後の勉強がやり易くなると思います.私もそうでした.

お薦めの本~修士課程向け

「Elements of Information Theory」 Thomas M. Cover, Joy A. Thomas, Wiley-Interscience; 2版, 2006, ISBN-10: 0471241954

「情報理論 -基礎と広がり-」 Thomas M. Cover, Joy A. Thomas, (翻訳: 山本博資, 古賀弘樹, 有村光晴, 岩本貢), 共立出版, 2012, ISBN-10: 432012300X

本書は情報理論の定番の教科書です.つい最近,日本語訳が出版されましたので,そちらも合わせて紹介します.森田先生の本棚で紹介されているので,詳細はそちらをご覧下さい.私の研究室でも修士課程の人は,本書を英語で楽しく(?)勉強しています.彼等には日本語訳の存在は秘密だったのですが,早々にバレていたようです.原著は分かりやすいお手本の様な英語で書かれているので,是非,日本語訳だけでなく英語をしっかり読んで欲しいと思います.

ここまでで,情報の量はエントロピーで測れるだとか,データ圧縮や通信の普遍的な法則についてご理解頂けるでしょう.ところで,近年では各家庭で光回線を利用する状況が一般的になって来ました.光は原子レベルのミクロな世界と同様,量子力学という物理法則に従っていて,波の性質を持つと同時に,光子という粒子の性質も持っています.現在の通信では光ファイバーに多数の光子を送り込んでいて,波としての性質が顕著に現れています.通信効率やエネルギー効率を高めるために,一粒一粒の光子に情報を担わせていくとどうなるでしょう?量子力学の世界が顔を出して来ます.

「Quantum Computation and Quantum Information」 Michael A. Nielsen, Isaac L. Chuang, Cambridge University Press, 2000, ISBN-10: 0521635039

量子情報と量子計算(量子コンピュータ)に関する定番の教科書です.両方の分野が書いてある分厚い教科書ですが,量子情報の部分だけでも読み進めていくことが出来ます.量子力学というと難しいイメージを持っている人も多いでしょう.しかし,有限次元の量子系に限定すると,基本の部分は実はそれほど難しくありません.本書でもそのような立場で,演習問題を交えながら,線形代数と量子力学の基本が身につくように工夫されています.一方,物理の教科書で量子力学を勉強してきた方にも新たな発見があると思います.

「量子情報科学入門」 石坂智, 小川朋宏, 河内亮周, 木村元, 林正人, 共立出版, 2012, ISBN-10: 4320122992

自分で紹介してしまいます☆.本書は量子情報科学ウィンタースクールという,全国の学部生・大学院生を対象とした合宿形式の講義が元になっています.専門的に研究をしている著者達が協力して,最近の研究も取り入れながら書いていますので,内容の濃い教科書に仕上がっていると思います.すでにNielsen-Chuangを勉強した方も,それほど内容が重なっていないので,楽しめるのではないかと思います.一方,学部生の方も読めるように配慮されていますのでご安心下さい.

ガイド役はこれでおしまいです.以下では自身の座右の書を紹介します.

お薦めの本~博士課程・共同研究者向け

「ヒルベルト空間と線型作用素」 日合文雄, 柳研二郎, 牧野書店, 1995, ISBN-10: 479520103X

量子力学の理解には行列や線形作用素の理解が不可欠です.有限次元に限定すると,量子力学はそれほど難しくないと述べましたが,重要な対象である位置や運動量を扱うには,無限次元を相手にする必要があります.無限次元の作用素を行列と同じような気持ちで扱うと痛い目に合います.基底が無限個になるだけで,行列みたいなもんだよ,と思っている方は是非本書を手にとってみて下さい.

また,有限次元の行列に限ったとしても,本書から沢山の武器を仕入れることが出来ます.例えば,作用素単調関数,作用素凸関数,作用素平均の理論は,量子系における情報量や行列不等式を扱う上で必殺の武器になります.本書ではこれらが要領良くまとめられているので,行列として読んでも十分得るものがあります.

「Quantum Information: An Introduction」 Masahito Hayashi, Springer-Verlag, 2006, ISBN-10: 3540302654

量子情報理論の分野について,入門からNielsen-Chuang以降の先端研究までが,最新の手法で整理された現時点で最高の教科書です.入門者の方は内容の豊富さに驚くかも知れませんが,最初の方で線形代数,確率論,情報理論の基礎を実践的に解説した後,量子状態を用いたメッセージ伝送の理論までが,分かりやすく述べられています.後半では,山道のような険しい部分もありますが,本書を読むたびに著者の力量に敬服するとともに,日々,研究の世界を自力で歩き回る体力・知力を鍛える必要があると強く思います.

「Methods of Information Geometry」 Shun-Ichi Amari (著), Hiroshi Nagaoka (著), Daishi Harada (翻訳), American Mathematical Society, 2000, ISBN-10: 0821843028

情報幾何の創始者による定番の教科書です.情報幾何は統計学におけるパラメータ推定の研究から始まりました.二つのデータが似ている(近い)とか,似ていない(離れている)という言い方をすることがありますね.この場合,何らかの距離概念(幾何学概念)を直感的に考えていることになります.情報幾何では,データの発生源としての確率分布を点とみなし,それらを集めた空間の微分幾何学を用いて精密な議論を展開します.これにより,統計的推定や近似のプロセスを幾何学的なプロセスに置き換え,強力な直感と手法を提供します.その後,統計学だけでなく情報理論,学習理論,制御など様々な分野に適用範囲を広げ発展しました.

本書では最初に,微分幾何における接空間,接続,曲率といった概念がコンパクトにまとめられています.記述の密度が濃いので,最初はなかなかスラスラとは読めませんが,じっくり取り組むと,整理され分かり易く書かれていることに気が付きます.情報幾何の山場は双対接続というリーマン接続の拡張概念で,こんな深い鮮やかな理論が工学/情報の分野から生まれたのか!と感動したのを覚えています.

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