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教員紹介 本棚紹介

森田 啓義 MORITA Hiroyoshi

情報ネットワークシステム学専攻 応用ネットワーキング学講座
教授

書棚の概略・研究テーマとの関連

主に,情報理論とその応用,とくに,データ圧縮法の解析,同期誤り訂正や,符号化変調,ネットワークセキュリティに関する理論的なテーマと,動画像圧縮データからのシーン抽出や,移動物体の追跡といった応用的なテーマを両翼に拡げて研究を行っている.そのため,確率論,解析学,代数学,情報理論,通信理論,画像工学,計算機システム,プログラミング関係の本が多い.最近は,ネットワークによる情報の共有といったテーマに関心があり,情報検索や集合知,機械学習に関する図書も増えてきた.

お薦めの本~学部生・一般向け

「Algorithms」 Robert Sedgewick, Addison-Wesley Pub. 1988

情報システム学を志す学生や関心のある一般の方にはまず,その基礎の一つである計算機科学,とくにアルゴリズムとデータ構造について一通りの知識を学んでいただきたい.

アルゴリズムとデータ構造に関する教科書は多数の良書が出ているが,あえて一つだけ紹介するとすればこの書をあげる.

プログラミングをしっかり学ぼうとする初学者が一番やっかいと感じるのは,おそらく,ポインタと再帰呼び出しではないだろうか.とくに再帰呼び出しは,それがなくとも結構プログラムが書けてしまうこともあって,なかなか厄介であるが,一度これを理解すると,面白いように色々なプログラムが書けてしまう.

本書はとくに再帰呼び出しに特化した内容という訳ではないが,整列・探索・照合といったアルゴリズムにおいて必須不可欠な話題だけでなく,コンピュータグラフィッスや計算機幾何学,グラフ理論といった関連分野までを手際良くまとめているところが類いまれである.

著者のSedgewickは有名なクイックソートの創始者の一人である.もしクイックソートを知らなかったら是非この本を読んでみることをお勧めする.とても分かりやすく説明されているし,クイックソートは再帰呼び出しを学ぶ格好の材料でもある.本書はもともとPascal(ご存知の人は相当古い?)で書かれていたが,その後,プログラムの部分だけCやC++, Javaといった言語に変えた版も出しているし,またそれらの日本語訳も手に入る.

お薦めの本~修士課程向け

「Elements of Information Theory」 Thomas M. Cover and Joy A. Thomas, John Wiley& Sons, Inc. 1991

とにかく読みやすい.情報理論の基本から最新のネットワーク符号化の基礎的な話題までを網羅していて,同時に,情報理論の基礎である確率・統計の十分な知識も身につく.T. M. Coverは情報理論の分野ではカリスマ的な存在で,情報理論だけでなくポートフォリオの分野でも有名.Joy A. Thomasは現在,IBMの研究員だが,もとはCoverの学生.本書は,Coverの講義をThomasがまとめた講義録に手を加えたものらしい.本書を読むと,Coverの名講義ぶりが目に浮かぶようで,情報理論を専門的に志す学生でなくとも,それを味わうだけでも手に取る価値がある.現在は,初版より少しボリュームが増えた第2版が出版されている.

お薦めの本~博士課程・共同研究者向け

「Analytic Combinatorics」 Philippe Flajolet and Robert Sedgewick, Cambridge Press 2009.

これは目下のところ,私が研究のネタを仕込むために使っている本の一つなので,あまり大っぴらに紹介したくないが,すこぶる力の入った800頁ほどの大作である.この本に出会うまでは,学部の頃に学んだ複素関数論は流体力学や電気工学などで役に立つらしいと話には聞いていた程度であったが,アルゴリズムの解析にかくも絶大な威力を発揮するのかと,読んでみて目からうろこが落ちた.

本書で扱っているのは,一言でいうと,組み合わせ論的な対象の漸近評価に尽きる.本文中の至る所に記述されている豊富な問題や例のどれもが非常に興味深く,心が強く惹き付けられてしまう.一つの問題にはまり込むと,他のやるべきことに全く手が付けらなくなってしまうので要注意! 

出版されたのは今年の1月だが,およそ10年ほど前より,著者のFlajoletのホームページから時々刻々と手が加えられて行くドラフトをダウンロードして読むことができた.現在のものは,初期のころからすると章立ても内容もすっかり変わっており,理論的には,特異点展開法を中心に据えたすっきりした記述に仕上がっている.

本書を読み通すには相当な力量がいると思う.われこそはと自負する情報システム学の若い研究者に是非お勧めしたい.己のもてる探究心をいやがおうにも掻き立てくれる名著である.

教員紹介