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教員紹介 本棚紹介

阪口 豊 SAKAGUCHI Yutaka

情報メディアシステム学専攻 人間情報学講座
教授

書棚の概略・研究テーマとの関連

私が専門とする脳科学の分野では,最新の知見をやさしく紹介する手頃な本は残念ながらなかなか見あたらない.それは,脳科学がいろいろなことを幅広く理解してはじめて研究の意味が理解できる分野であるためかもしれない.ただそれだけに,研究結果の一部だけをつまみ食いして都合のよい解釈をつけて紹介する「えせ科学」的な著作が少なからずあるので,注意を要する.

「紺屋の白袴」というわけでもないが,私自身がふだん読む本はそのほとんどが専門分野からかけ離れたものである.そもそも机に向かって本を読む時間は短く,本を読むのは専ら通勤や出張途中の電車の中である.ほかにすることのない電車内はある意味で最も読書に集中できる空間であり,また,空想をふくらませるのにも適している.以下で紹介するものも一部を除いてそうして読んだ本である.

お薦めの本~学部生・一般向け

「脳科学のテーブル」 甘利俊一,外山敬介,篠本滋編,京都大学出版会, ISBN-13: 978-4876988341.

本書は,日本の脳研究における生理学(実験系)と数理学(理論系)の第一人者それぞれ一人を囲んで行なった座談会記事を単行本としてまとめたもので,実験と理論の視点から脳科学発展の歴史についての議論が紹介されている.専門外の人には少し敷居の高いかもしれないが,個別の内容についてはちんぷんかんぶんでもこの一世紀の脳科学の歩みは間違いなく感じ取れる本で,お薦めの一冊である.

「弓と禅」 オイゲン・ヘリゲル,福村出版 ISBN-13: 978-4571300271

私の研究の中心は,脳科学の中でも身体の動きや制御のメカニズムに関するものである.数年前に,情報ネットワークシステム学専攻の長岡先生から佐川幸義という合気道師範に関する本を紹介されてから,身体と精神の関係についていろいろと考えるようになった.この本もそのような背景の下で読んだ一冊である.

著者のヘリゲルは昭和初期に東北大学に客員教員として赴任したドイツ人哲学者で,滞在中に禅仏教の影響を受けた弓道に入門した(彼が師事した阿波研造範士は禅の影響を受けたようである).本書は,彼が弓術を習得し級を得るまでの数年の経緯を紹介した本である.西洋の合理的な思考法を土台とする著者が日本の弓術に向かう姿勢やその「試行錯誤」の過程は興味深い.その一方で,もちろん私には彼の経験を脳科学の言葉で説明するにはどうするればよいかという悩みもつきまとった.

お薦めの本~修士課程向け

「7つの習慣―成功には原則があった!」 スティーブン・R・コヴィー,ジェームス・スキナー,キングベアー出版, ISBN-13: 978-4906638017

「新ハーバード流交渉術-論理と感情をどう生かすか」 R・フィッシャー,D:シャピロ.講談社 ISBN-13: 978-4062134415

これらはいわゆる「自己啓発本」である.かつては私もこの種の本を軽視していたのだが,近年精神的な悩みを抱える学生が増えてきたこともあり,数年前に何冊かを手にとってみたところ,なるほどと思えることが書いてあることがわかった.修士課程のあいだに,この手の本を一度は読んでみて自身の生活や人生について考えてみるのもよいのではないかと思う.

同様の本には,カーネギーやナポレオンヒルなどの古典的な本からマグローなどの新しい本までいろいろとあるが,ここで紹介した二冊はいわゆる「Win-Winの関係」を重視するものである.最近は「誰かが勝てば誰かが負ける」というゼロサム型あるいはWin-Lose型の社会観をもつ人が多いようだが,他人に相対的に勝つ方策よりも他人・自分ともに絶対的に高められる方策をとる方が長い目で見てよい結果をもたらすという価値観は傾聴に値するであろう.

お薦めの本~博士課程・共同研究者向け

「熱学思想の史的展開(1)(2)(3)」 山本義隆,筑摩書房 ISBN-13: 978-4480091819ほか

最初に紹介した「脳科学のテーブル」が脳科学史を紹介した本であったのに対し,本書は西洋において熱力学が構築されていく過程を詳述したものである.以前は分厚い単行本であったが,最近改訂版が3分冊となってちくま学芸文庫から出版された.単行本を数年前に読んだときに「科学の一分野が構築されていくとはこういうことなのか」と感激した記憶が強く残っている.本来,こういう読みがいがある本は何度も繰り返し読んで深く味合わなければなければならないのだが,残念ながらそれっきりである.

自分の研究が他の研究とどのように関連づけられ,研究史の中でどのように位置づけられるのかは,常に頭のどこかにおいておきたい.一人よがりにならず,かつ,他人に振り回されない,このバランスが肝要である.

「月刊「田舎暮らしの本」」 宝島社,雑誌:01617-04

これは単なる趣味の雑誌である.以前より私は,状況が許せば早めに引退して静かな農村に移り住み,晴耕雨読の生活を送りたいと思っている.この雑誌は,そのような夢をもつ人たち向けに田舎暮らしの実際や知恵などを紹介するものである.都会生活者が農村に入ったときの楽しみや苦労を紹介する本は多数あるが,気楽に読める点,情報が新しい点では雑誌が一番である.

研究中心の生活もよいが,息抜きもまた大事.音楽良し,山歩き良し,肩の力を抜くとよいアイディアが浮かぶかもしれない.

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