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学術講演会:イベント・ニュース

第10回学術講演会 概要

「集団とメカニズムのチカラ:交通混雑解消からテーマパークの待ち時間活用まで」

長江 剛志(電気通信大学大学院情報システム学研究科 准教授)

本発表では、「社会はどのような情報システムを必要とするか?」「現在の情報システムを活用するとどのような社会が実現できるか?」というテーマに対して、「集団」と「メカニズム」からの切り口を2例紹介する。第1の例では、都心部の交通混雑問題は「情報技術(IT)を活用して各道路の正確な所要時間を利用者に提供すること」だけでは解消できないことを示す。しかし、この IT に加えて道路利用者から「交通量に応じた"混雑料金"を徴収する」という制度(メカニズム)を組み合わせることで、「自らの所要時間を減らしたい」という個々の利用者の利己的な行動変更の結果、交通網全体で発生する所要時間の総和が「自律分散的」に最小化させられることを示す。第2の例では、一部のテーマパークで人気アトラクションの待ち時間軽減のために導入されている「優先搭乗券(予め決められた時間に来れば並ばずに入場できる)」を電子市場で取引する新しい楽しみ方を提案する。その上で、適切な市場取引メカニズムの下では、「自らの効用を最大化させたい」という個々の利用者の利己的な行動の結果、優先搭乗券の効率的な配分が自律分散的に実現でき得ることを示す。

「ネットワーク上の意見形成ダイナミクス:影響力が大きいのは誰か」

増田 直紀(東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻 准教授)

本発表では、ダイグラフ(枝に方向がついているグラフ)上の意見形成ダイナミクスを扱う。各頂点(個人) v は、A または B のいずれかの意見をとる。v は、自分の上流にいる反対意見の頂点が多いと、自分の意見を(例えば A から B へ)変更しやすいとする。このようなダイナミクスは、投票者モデルなどと呼ばれる。どのような意見の分布から出発しても、最終的には、全頂点が意見A、または、全頂点が意見 B となる。この最終状態を合意形成、あるいは、固定、と呼ぶ。A の固定確率とは、最終的にネットワーク全体が状態 A になる確率である。ある v のみが A で、他の頂点は B である状況から出発する A の固定確率を考える。新しく誰か 1人に導入された意見や噂がネットワーク全体に広がる確率に対応する。枝に向きがついていないネットワークでは、固定確率は、v の次数のみで決まる。しかし、ダイグラフでは、v の次数だけでなくネットワークの大域構造が固定確率に大きく影響する。自分が強いグループに居れば、次数が小さくても固定確率は大きくなりうるし、逆も然りである。固定確率は、頂点 v の影響力の指標となっている。この量は連立方程式の解として容易に計算できる。また、この量が投票者モデルに限らず、より広いクラスのダイナミクス(ランダム・ウォーク、同期など)における v の影響力をも表すことにも触れる。

「群知能とネットワーク型制御」

生天目 章(防衛大学校電気情報学群情報工学科 教授)

個々の要素の働きに着目のでは説明できない現象を、創発という。日常の生活で見られる例として、交通渋滞やある商品が爆発的にヒットすることである。オームロッド(P。 Ormerod)は、社会システムを従来の視点でとらえることは誤りである、と警告している。社会のさまざまなシステムは、一見複雑でも、その挙動は予測でき、多くの場合、制御可能である、という考えは捨てるべきであろう。人間が織り成す社会は、機械系というより生物系に近い有機体であることから、要素(個人や集団)間の相互作用に着目しなければ、その本質をとらえることはできない。また、個人や集団であれ他から影響を受けるために、全体の挙動を予測したり、それをうまく制御することは困難である。一方で、そのような複雑適応系としての特徴をもつ社会システムを制御するための手法の確立も大きな課題である。本発表では、生物界の群れ行動を例にして、創発を生み出す全体的な知性(群知能)について解説する。特に、群知能の創発と背後にあるネットワーク構造について着目する。創発現象など意図しない結果を引き起こすメカニズムは、個々の要素と全体の間のミクロ・マクローループにあり、この関係に着目することで、創発現象を操作する(群制御)ための知見が得られることを、いくつかの例を取り上げて解説する。

「ヒトの環境との新しいインタラクション関係の構築に向けた構成論型アプローチ」

栗原 聡(大阪大学産業科学研究所 准教授)

急速に進む高齢化に伴う一人暮らし高齢者の家庭内での事故や、年間における乳幼児が病院にかかる怪我などの多くが家庭内で発生している事実など、日常生活での安全安心を確保するための有力な道具としてICTに対する期待が高まっている。しかし、我々の日常生活環境は大規模複雑系であり、これに適応できるシステムを構築するには、従来の還元論型に基づく手法に代わる構成論型に基づく必要があり、その具体的な例として、インターユビキタスネットワーク情報基盤構築に関する研究と、次世代高度道路交通システム構築に関する研究を紹介する。そして、脳や人体・社会システム等の大規模複雑システムは、個々の階層がある要素集合によるネットワークとして構成され、そのネットワークとしての振る舞いが別の階層の要素を生み出すダイナミクスを持ちながらも、個々の階層でのダイナミクスが階層ごとに独立している複雑階層構造であり、これまでの工学的に構築される階層構造と極めて異なる特徴を有する。そこで、これを踏まえた上で、システムを構築する際の重要な道具であるシミュレーション技法の在り方を「模倣」と「創造」という観点からとらえ直す。

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